研究概要 |
本研究の目的は,我々が検討している時間成分を利用した信号解析手法を開発し,ハードウェアとしてDigital Signal Processor (DSP)を想定し,提案法の有効性を示す.その応用として,同期加減算処理を用いたダムの静水位推定法や音高推定法,Walsh変換を用いたOFDM伝送方式を検討し,その基本性能を明らかにした.以下,これらについて順に記す. サンプリングレートを制御するディジタル信号処理の有効性を検証するために,雑音に埋もれた正弦波信号の周波数推定を取り上げた.これまでにアルゴリズム検証は終え,乗算量が従来法に比べ少ないことを示している.本研究では,ハードウェアのプロトタイプを作成して,周波数推定性能およびハードウェア量を含めた性能を従来法と比較し,少ない語長で同等の性能を持ち,乗算器数が9分の1となることを示した. 応用として,同期加減算処理を用いたダムの静水位推定法は,おおまかなセイシュの周波数のみを与え,セイシュの周波数およびフーリエ係数を適応的に推定し,その逆相成分を入力信号に加えるダムの静水位推定法を検討した.これにより,ダムの静水位変化に伴うセイシュの周波数変動に追従することができた.同期加減算処理のもう一つの応用である音高推定法は,同期加減算処理を適応的に制御することにより,従来までの手法と比べてハードウェア量が少なくなることを示した.最後の応用は,現在無線通信の分野で広く研究されているOFDM伝送方式のハードウェア削減を行うために,加減算だけで処理が可能な直交関数であるWalsh変換を用いたOFDM伝送方式を検討した.これにより,AWGN環境でその基本性能を示し,実際の伝播環境に近いフェージング環境下での伝送性能改善手法を検討し,従来手法と比べてハードウェア量が46%削減できることを示した.
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