無線通信システムの伝送速度の高速化においては、各端末局の送信電力が増大し、干渉電力が大きな問題となる。われわれは、干渉電力抑圧方式として、端末局にアダプティプアレイアンテナを設置し、アダプティプアレイアンテナの指向性制御により、目的とする方向に対しては電力を放射するが、干渉となる方向に対しては電力の放射を行わない、伝搬経路制御による干渉抑圧方式を提案してきた。 提案方式では、端末局に設置したアダプティプアレイアンテナの指向性制御において、アダプティプアレイアンテナの自由度を超える多くの干渉波が存在する環境では、的確な方向に深いヌルが形成されず、干渉電力の放射を大きく抑圧する良好な指向性が形成されない問題に対して、干渉波方向に対して、少ない自由度で深く幅の広いヌルを形成し、干渉電力の放射を大きく抑圧することが可能なDeep Null Creation Technique (DNCT)およびWide Null Creation Technique (WNCT)の提案を行ってきた。 平成16年度においては、伝搬経路制御方式において、DNCT、WNCTを用いて形成する幅の広いヌルをWindowと定義し、少ない自由度でより効率的に干渉波の放射電力を抑圧するために、伝搬環境に応じて、Window幅を適応的に制御する「Window制御にもとづくDNCT、WNCT」の提案を行った。端末局、アクセスポイント周辺における散乱体の密度が様々に異なる状況のモデル化を行い、計算機シミュレーションを用いて干渉電力抑圧特性を定量評価した。その結果、上り回線のアクセスポイントでのCINR比の累積分布50%値において、従来方式と比較して、約20dBの利得が得られることを確認した。
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