本研究は、時間周波数平面を複素平面と同一視し、サブバンド信号を正則関数として扱うことができる、申請者が導出した正則フィルタバンクという特殊なフィルタバンクを利用することにより、従来困難であった複素零点の検出を容易にし、零点が本来有している振幅/位相特性の表現力を活用する新たな時間周波数信号解析法を構築することを目的としている。具体的には、ブロードな帯域幅をもつフィルタバンクと組み合わせた高時間分解能、かつ位相感度を有する分析をターゲットとしている。本年度の成果は以下のとおりである。 1)時間周波数零点解析の実時間での実装 実環境における信号の動的特徴抽出を目的として、実時間での実装を試みた。FFTの高速ライブラリの利用、精度はやや粗いが高速かつ簡易な零点検出法などを組み合わせることにより、ほぼ実時間での実装を行ない、音声などに適用できることを確認した。 2)時間差検出への応用の検討 通常、音源定位においては複数マイクロフォン間の位相差を検出することにより観測信号間の時間差を検出し音源方向の定位に用いているが、マイクロフォン間隔より波長が小さくなるとエリアシングが生じるため、音源方向には複数の可能性が生じる。これに対し、複数信号間の零点の検出時刻間隔を求めることにより、時間軸上で差を検出し、このようなあいまい性の解消をはかる手法の検討を行なった。また、複数音源が生じた場合の理論解析を行なった。
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