研究概要 |
多関節マニピュレータにおいて一部の関節アクチュエータが故障した場合でも簡易な作業を遂行させることができれば,宇宙空間などの極限環境下においては耐故障性が向上することと同じ効果が得られる。本研究は,従来の制御理論において外乱扱いされてきた系の非線形動特性を有効利用しようとする観点から,故障マニピュレータ(劣駆動マニピュレータとよばれる)の非線形動特性を有効利用したアームの軌道制御法を構築することにより,故障マニピュレータの耐故障性を向上させることを目的としている。 劣駆動マニピュレータの一例として倒立振子を採用し,これを制御対象とした。台車に取り付けられた倒立振子は,アクチュエータを持たず台車の駆動によって運動する。台車を周期運動させた場合の倒立振子の力学系(運動方程式)を導出し,カオス的運動,安定周期運動,不安定周期運動など,その力学系の非線形動特性に起因する種々の運動が存在していることをコンピュータシミュレーションにより確認した。 この不安定周期運動は理論上無数に存在していることが知られており,これを有効利用すれば倒立振子の様々な運動パターンを実現できる。そこで不安定周期運動を安定化する制御系を提案し,理論上の有効性をコンピュータシミュレーションにより検証した。しかしながら,提案した制御系の安定化可能領域を数値計算により調査した結果,その領域が非常に狭いことが判明した。実際の機械システムにはセンサーからの観測ノイズやモデル同定誤差などが混入しており,提案した制御系を実機に適用するためには安定化可能領域を拡大させる必要がある。そこで既に提案した制御系について,その制御周期を分割した制御系を新たに提案した。更に,制御周期を分割した制御系を適用することによって,安定化可能領域が拡大できることをコンピュータシミュレーションにより確認した。
|