既往の研究では毛細管張力を基本としたメカニズム理論が最も現象を現しているといわれているが、申請者のこれまでの研究の結果、このメカニズム理論では乾燥収縮を説明できないことを証明している。そこで、申請者は内部の水が外部へ逸散する時、水(液相)から水蒸気(気相)への相転移が起きて乾燥収縮すると考えた。内部の水は、自由水や水和生成物への吸着水、水和物と結合した水など複数の水の変態が存在し、水の形態によって、気相へ相転移するエネルギーが異なる。つまり、配合によって収縮量が異なる理由は、それぞれの水の量が異なるためと考えられる。したがって、内部水が相転移するエネルギーを算定することにより、新しい乾燥収縮のメカニズムの構築を目指すこととした。この考えを式化すると、内部エネルギー変化dUと考えた場合、雰囲気温度と作用力(大気圧)は一定条件なので、dU=TdS-pdV+ΣμdN(S:エントロピー、T:温度、p:作用力(大気圧)、V:体積、μ:化学ポテンシャル、N:分子数)と表すことが出来る。この式に基づいた理論を構築するための、内部エネルギー変化dUの測定法を確立するのが、1年目である今年度の主目的である。その内部エネルギーの変化を測定する方法として、示差走査熱量測定法を使用した。まず、示差走査熱量測定法によって、セメント硬化体のエンタルピーの変化dHを測定した。乾燥収縮供試体に掛かる作用応力は大気圧のみであり、定圧変化と考えられるので、dU=dH-pdVによって内部エネルギー変化dUを算定した。これにより、今年度は内部エネルギーの測定法を確立した。来年度は、確立した内部エネルギーの測定法によりデータを蓄積し、これまで得てきたひずみ、内部相対湿度(化学ポテンシャル)のデータを組み合わせることにより、メカニズム理論の構築を目指す。
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