研究概要 |
雨天時および晴天時の水・熱輸送過程の定量的・動的な実態を解明し,年間の水・熱収支を明らかにすることを目的として,東京都大田区内の低層住宅地域において行っているフィールド観測(放射・熱フラックス,および雨量・流出量などの計測)において,新たに高分解能CO_2/H_2O多点ガスマルチスキャンシステムを構築した. 気温、水蒸気、CO_2の鉛直分布を精度よく計測するために以下のようにシステムの改良を重ねた.分析計を地上部に設置し,多点切り替えフローシステムにより上空11高度の濃度計測を行う.このシステムにはバックグランド濃度の時間変化の影響を最小限に抑えるため,計測サイクルを短くする工夫がされている.具体的にはパージ用ポンプにより11高度の空気をアナライザーの直近まで常に流し続け,サンプル空気が短時間でアナライザーに到達するように設計した.各高度の計測時間は10秒であり(切り替え直後の3秒間はデータとして使用しない),全高度のプロファイルを計測するのに必要な時間は120秒である.精度よく計測を行うため,常にゼロガス(乾燥窒素:99.9999%)をリファレンスセルに流し続け,またCO_2標準ガス(500ppm)を1時間毎にサンプルセルに流してリアルタイムキャリブレーションを行った. このシステムを用いて,冬季におけるスカラーの鉛直分布輸送特性を調べた結果,以下のようなことが明らかになった.(1)晴天日における鉛直濃度分布の日変化を調べたところ,温位が高くなる日中には,鉛直方向の濃度が一様化している.また日没後は鉛直方向における温位差が大きくなり,同時にCO_2・H_2O濃度が高くなる.特にCO_2において地表面付近で顕著な濃度の増加が見られる.(2)大気安定度の指標としてバルクリチャードソン数Rbを用いて,大気安定度別のCO_2プロファイルのアンサンブル平均像を調べたところ,CO_2濃度は不安定時(Rb<-1.0)に一様となるが,安定時(Rb≧5.0)はキャノピー内で上空よりも40ppmも増加する.大気が安定なときは主に家庭などから排出されるCO_2が,キャノピー内で滞留し高濃度化するためと考えられる.一方,水蒸気は常にキャノピー下方で最大となる分布をしており,土壌などからの蒸発がこのようなプロファイル形成に寄与していると考えられる. 今後は水蒸気プロファイルと渦相関潜熱から水蒸気のシアー関数を求め,水蒸気の鉛直分布からフラックスを算出する手法の検討を行う予定である.
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