研究概要 |
本年度の研究実績は,トリップチェイン型の新たなモデルの提案という理論展開と,2時点のデータを用いた実証分析の2つに大別され,以下それぞれを詳述する. 1.統合需要型利用者均衡モデルの実用化へ向けての課題のひとつは,トリップを分析単位としていることにある.このことは,例えば,手段選択モデルを内生化したモデルで,通勤手段が変更した場合に,帰宅トリップの手段も変化する構造になっていない,という問題を生じさせ,需要予測・便益評価に系統的なバイアスを生じさせる恐れがあった.本研究は,これらの問題を解決可能な,トリップチェイン選択の概念を導入した最も自然で基本的と考えられる統合需要型利用者均衡モデルを提案した.このモデルは,等価最適化問題に変換可能で,実都市圏への適用性も高いことが示され,そのモデルの拡張形式,モデルの特徴を生かした政策分析例をいくつか提示した.この成果は,国内外の学会で発表済みであり,Transportation Research Record誌への論文掲載が受理されている. 2.研究代表者が構築してきた東京都市圏を対象とした統合需要型利用者均衡モデルは,平成10年の東京PT調査という一時点のデータのみを利用していた.この10年前のデータである昭和63年度東京PT調査及びこの年度に対応した国勢調査などの統計データ・交通ネットワークデータを整備し,この2時点のデータを生かした分析を行った.具体的には,平成10年の交通データで推定されたモデルに,昭和63年の人口・交通ネットワークなどを入力し逆予測を行った.この逆予測の精度は,統合需要モデルが固定需要モデルよりも高くなることなどを明らかにした.次年度は,これらのデータを活用して予測誤差の伝播解析による予測値の頑健性の分析などを引き続き行っていく予定である.
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