研究概要 |
この研究では、多層ネットワークの包括的数理モデルの提案,モデルの実証に関する理論の構築また,具体的な数理モデルの実証例の提示を行うことを目的としている.本年度は,前者2点に関する研究を行った. 多層ネットワークの包括的数理モデルとして,容量制約条件が課された時空間ネットワークにおける利用者行動の理論モデルの特性を分析することを行った.本モデルでは交通混雑は本質的には交通機関の容量制約を補償するために起こるものと考え,混雑を,容量超過した需要を他の選択肢に導くためのコストとして解釈している.本モデルの均衡状態の解法および性質について分析を行い,その結果として,均衡状態においては,混雑に対する不効用が迂回(時間方向および空間方向)の不効用よりも大きい利用者が優先的に容量を占有することがわかった.このことは,均衡状態では,遅れ時間部分を別とすれば,利用者行動は最適状態と同一であることを示している.また,本研究では需要が追加されたときの限界費用問題についても分析を行った.それにより,限界費用の大きい利用者特性の特徴を示した.また,遅れ時間の増加が外部費用の増加と等しいことも示した. モデルの実証のための理論を構築するために,都市高速道路における車両検知器データから利用者行動を分析することを試みた.このために,まず渋滞のしばしば発生する都市高速道路上の車両検知器データを,約1年分に渡って実務者より受けた.このデータは膨大なものになり,通常の方法ではあつかいきれないため,分析のための専用のシステムをコンピュータ上に構築した.それを用いて断面交通量と旅行時間の関連を統計学的に分析し,混雑と利用者の時空間迂回の存在を示唆する相関関係が存在することがわかった.
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