研究概要 |
世帯内での共同生活や構成員間の役割分担などの影響で,多くの場面において集団意思決定メカニズムが存在する.次世代交通計画手法として注目されているアクティビティ・アプローチのほとんどは個人の意思決定が他人から影響を受けないと仮定している.本研究では確率効用最大化理論の枠組みの中で,時間配分理論及び集団意思決定理論を融合し,世帯内相互作用や構成員の相対的影響や多様な制約条件の表現,交通手段選択の内生化を理論的に取り入れた世帯時間配分モデルを開発する.今年度では以下のような研究成果を得た. 1)オランダの世帯時間利用データを用いて,夫婦世帯を対象に「多項線形世帯効用関数」に基づく世帯時間配分モデルを構築し,世帯意思決定の曜日間の相違を検証した.分析の結果,(1)平日には妻が,休日には夫がより合理的な行動をとること,(2)世帯内相互作用と活動間の相互作用は曜日によって変化しないこと,(3)共同型活動が平日より休日の方がより重要視されること,(4)平・休日に関係なく世帯は構成員の存在およびそれぞれの都合を充分に考慮しつつ,それぞれの自宅内活動および自宅外独立型自由活動を維持するような世帯意思決定を行うことを確認できた. 2)総務省の社会生活基本調査データを用いて,「等弾力性世帯効用関数」を用いた世帯時間配分モデルの頑強性を実証できたと同時に,社会資本整備が人々のクオリティ・オブ・ライフに与える影響を分析し,政策評価ツールとしての有効性を確認した.そして,中山間地域アクティビティ・ダイアリー調査データを用いて,「多項線形世帯効用関数」と「等弾力性世帯効用関数」による世帯時間配分モデルを比較し,両モデルの相違点をそれぞれ明らかにした.ただし,モデルのパフォーマンスの優劣については結論をつけることができず,より大規模のデータを用いて検討する必要性を明らかにした.
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