研究概要 |
世帯内での共同生活や構成員間の役割分担などの影響で,多くの場面において集団意思決定メカニズムが存在する.本研究では確率効用最大化理論の枠組みの中で,時間配分理論及び集団意思決定理論を融合した2種類の世帯時間配分モデルを開発し,総務省が平成13年に実施した社会生活基本調査という大規模時間利用データを用いて,世帯時間配分における集団意思決定メカニズムを比較すると同時に,QOLという視点から社会基盤整備の効果に関する評価を試みた. 1)世帯時間配分行動における集団意思決定メカニズムを表現するのに,多項線形モデルと等弾力性モデルはともに有効であり,活動時間の現況再現性において有意な差が見られなかった.ただし,両者から推定した世帯構成員間の相互作用が世帯総効用に与える影響の方向が異なる.これは異なる集団意思決定ルールは同じ意思決定の結果を導くことが可能であることを意味すると同時に,両者を同時にモデリングする必要性も示唆するものである. 2)構成員別活動時間については,多項線形モデルと等弾力性モデルはほぼ似通った結論を得た.つまり,各構成員の時間配分に際して,自宅活動の影響は最も大きく,次に大きいのは活動間の相互作用である.他の活動の影響順位は自由活動,必須活動,買物,そして,共同型活動となっている. 3)主観的評価方法によるQOLの計測方法の問題点を解消するために,本研究では効用の概念により定義された世帯時間配分パターンからQOLを計測する方法を提案し,その有効性を確認した.シミュレーションの結果,どの地域においても高速道路の整備によりQOL値が減少し,都市公園の整備によりQOL値が増加することが分かった. 4)モデルの現況再現性と前述のシミュレーション分析の結果を総合的に判断すると,今回の大規模時間利用データを用いたケーススタディにおいては,多項線形モデルはより現実的な結果を示していると解釈することができる.
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