本研究では、安全な下水汚泥の緑農地利用を推進するうえで下水汚泥中重金属の効率的な除去法を提案するために、下水汚泥中の重金属形態として、微生物細胞を構成するタンパク質と有機的に結合した重金属化合物に焦点を絞り、汚泥からの有機結合態重金属の分別・分離法を検討した。 実験試料は、嫌気性消化後の脱水汚泥を用いた。まず、10mM Tris-HCl緩衝液を溶媒として超音波破砕し、可溶性タンパク質を回収した。次に、Triton X-100を溶媒として超音波破砕し、脂溶性タンパク質を回収した。最後に、0.1M Na_4P_2O_7で細胞外高分子を抽出した。これらの回収物中のタンパク質量および重金属量を分析した結果、いずれの方法においてもタンパク質が回収されたが、重金属については、回収率が金属の種類によって異なり、全抽出率はCd、Cr、PbおよびZnでは20%と低くかった。Cu、MnおよびNiの全回収量は30〜45%と他の重金属に比べて高く、特に、Cuは0.1M Na_4P_2O_7で約30%の回収率であった。 次に、SEC/ICP-MS法によって、下水汚泥から0.1M Na_4P_2O_7によって抽出したCuの分析した結果、分子量13.7kDaと67kDaの標準タンパク質の280nmでの吸光度のピークの間に未知試料の顕著なピークが見られた。さらに、時間毎のフラクション中のCu濃度を測定した結果、吸光度のピークとCu濃度のピークが一致した。この結果から、汚泥中に細胞外高分子に含まれるタンパク質と有機的に結合するCuが存在し、その分析をSEC/ICP-MSによって行うことが可能であることが分かった。 今後は、酸、第二鉄、鉄酸化細菌あるいは過酸化水素を用いた重金属溶出法が有機結合態重金属類の除去にどの程度寄与できるのかを比較検討することによって、下水汚泥からの有機結合態重金属類の除去機構の解明を目指す。
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