昨年度の研究より、コンコース内の温熱環境は利用者の通過用途としては作用温度32℃、滞在用途としては作用温度26℃が上限となることがわかった。そこで本年度はパッシブ手法を用いてこの環境条件を実現するための検討を行った。不快要因となる駅独特の温熱環境形成メカニズムを明らかにすることを目的とし、2006年7〜8月の期間、詳細な夏季温熱環境測定を行った。測定対象駅は前年度と同様、巣鴨駅・三鷹駅・上野駅とした。コンコース内の長期温湿度測定、移動計測によるスポット測定、サーモカメラによる躯体表面温度測定、に加え、開口部の風向風速・温度測定を行った。同時に詳細な屋外気象の測定も行った。また、コンコース内における内部発熱量を調査した。コンコース内の空気温度は外気温よりも約2℃高く最大36℃となっており、3駅ともに屋根面・壁面からの放射が大きいことがわかった。また、構内の気流速度は平均0.4m/s程度と低かった。 実測結果を踏まえ、巣鴨駅を対象として熱換気回路網を用いた温熱環境シミュレーションを行い、パッシブな温熱環境改善手法を提案・評価した。まず看板照明等の内部発熱を削減したが、構内空気温度・平均放射温度ともに大きな効果は見られなかった。躯体(特に屋根面)の断熱は居住域の空気温度を大幅に低下させるには至らなかったが、日中躯体表面温度を1〜4℃、平均放射温度を2℃程度低下させる効果が見られた。また、排煙窓を全開にして通風を行ったところ、日中外気温が高い場合には効果が小さいものの、他の手法よりは空気温度を低下させる効果が見られた。以上の3手法を組み合わせることで、夏季2ヶ月間において駅空間が利用者の許容しうる温熱環境(SET^*32℃以下)となる時間帯が、約10%増加することが示された。滞在が主となるタスク区域にて作用温度26℃を実現するには、別途タスク空調等の環境改善手法が必要であろう。
|