本研究の目的は、古代地中海世界のヘレニズム期の墓の体系化に向けて、建築形態、建築技術、造型理念の観点から、家型墓の地域性や時代性を明らかにすることにある。これに向けて、平成18年度は、研究対象を北アフリカ、シリア、レバノン、バクトリアの家型墓とし、建築形態、建築技術、設計法の観点から検討を行った。 建築形態の比較研究では、ヘレニズムの家型墓調査報告書等の資料の分析、及び現地での視察を通して、家型墓の形態的特徴を整理し、各時代、各地域について比較検討を行った。これにより、例えば、シリアやレバノン、ヌミディアの家型墓には、真性ピラミッド型の屋根が載る塔状の立面構成を持つものが多く、これらの地域においては、ヘレニズム期においても古代フェニキア人の伝統が影響している可能性があることが把握された。 建築技術の研究では、ヌミディアの家型墓では、ギリシア式の建築装飾が使用されているものの、古代地中海の組積造建築で一般に用いられているダボやカスガイは使用されておらず、特殊な施工法が用いられていることが確認された。 設計法の検討では、神殿等の他種の地中海建築の設計法を参考に、ヘレニズム期の家型墓調査報告書を用いて、北アフリカ、シリア、レバノンの家型墓の設計法解明の可否と方向性について検討した。その結果、各地域の墓は共に独特な建築形態を持っており、設計法の分析によって有用な結果が得られる可能性が高いことが把握された。特にヌミディア地域の家型墓群は、建築形態がギリシア式であるにもかかわらず、施工法は古代ギリシアとは別物であるので、設計法の検討が肝要だと思われる。これらの家型墓の設計法については、現在検討中である。
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