本年度の計画は、ジェイ・ハンビッジとダイナミックシンメトリー理論に関する資料収集を可能な限り行い、その内容の整理、および既往研究の検証などを行うことであった。 まず資料収集については、これまでにハンビッジの著作(初版)を含め、ダイナミックシンメトリー理論に言及した内外の論文・文献を総計約130点収集し、他にハンビッジの未発表原稿やドローイングの複写を入手した(収集作業は今後も継続する)。収集した資料については、内容にもとづき「分析対象となる史料」と「参照すべき既往研究」に分類した。史料に関しては、ハンビッジの論理やダイナミックシンメトリー理論の基礎概念について、古代思想や他の比例論をふまえて批判的に検討を加えるとともに、当時の論争や同理論の援用について整理を行った。既往研究については、検証を行うことで、信憑性が高いとされる戦後の研究にも一部に誤りが存在することも判明した。またパルテノン神殿やエレクテイオンに関するハンビッジの研究については、ハンビッジの著作の記述に、部材の曲線や装飾の位置などに関して不明瞭な部分が散見されたため、これについては実際にアクロポリスにおいて情報収集を行い、確認を行った。 なお2004年9月に、この理論に関する基礎概念やハンビッジの論理に関して、研究代表者の論文が『日本建築学会計画系論文集』第583号(査読付)に掲載された。その内容は、ハンビッジの論理の矛盾、および基礎概念の原義に焦点をあててダイナミックシンメトリー理論の本質を明らかにするものである。
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