研究概要 |
19世紀末に発展したイタリアの建築修復論は、20世紀に入ってあらたな局面をむかえる。建築単体に向けられていた修復理論が都市スケールに拡張してゆくのである。とくにローマの建築家・理論家のグスターヴォ・ジョヴァンノーニ(Gustavo Giovannoni,1873-1947)は、ミラノのカミッロ・ボイト(Camillo Boito,1834-1914)によって完成させられた建築修復理論を継承しながら、今日の都市保全につながる理論を確立し、なおかつ都市計画の実践においても功績のあった人物である。ジョヴァンノーニは複数の建築群を修復対象とする。したがって、当時行われようとしていた都市計画の指針に大きな影響力を持つようになるのである。「間引き」という手法によって、重要なモニュメントはできるだけ残しながら、建築が密集して建て込む中世以来の都市街区に空地を確保し、採光や通風の面で環境を改善しようとする。重要なのは、こうした策が既存の都市組織の保存につながる点である。もっとも、ある面では不整然な都市組織が残ってしまうわけだが、この点もけっして負の評価のままではなく、都市空間にもたらされる視覚的、絵画的効果として積極的に価値づけられたのである。ローマのルネサンス地区では重要な建築を視覚的に生かすように、さらに、通風と採光を十分に満足させるように公共空地(広場や街路)が計画された。整然とした計画やデザインが求められた20世紀という時代にあって、不整然の魅力を訴えることができたからこそ、都市計画と建築保存の歩み寄りが果たされたのである。そして、不整然に対する積極的な価値付けは、過去の都市組織そのものに対して投げかけられるとともに、そこに加えうる現在の都市計画手法としても効力をもつのであった。
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