本年度の研究として、「有機的」概念の評価軸の作成を挙げていた。 まず「有機的」と呼ばれる建築家の建築論の再考として、建築史家ピーター・コリンズの論考を基底に、建築と生物学とのアナロジーに関する評価軸を検討した。そこでは建築理念の発展においては生物学の発展と重合するものが多々あるという認識を得、一方でコリンズの論考における生物学の取り上げ方があまりに簡略化されすぎており、生物学の発展と重合するものについての補完の作業を行った。 継続的に研究を行っている建築家フーゴー・ヘーリングについては、生物的形態をまったく用いない時期の作品の検討を行ったが、その時期の作品においても思考過程は幾何学的ではなく、むしろ生物学とのアナロジカルな思考が行われていたことを検証した。ヘーリングと建築論的、造形的に対極にあるベンツェル・ハブリックについては、ドイツのアーカイブにおいて著述・作品に関しての資料を収集し、現在分析を行っている。 生物学関連文献からの検討では、生物学の学説のうち、アリストテレスについて、建築とのアナロジーを用いているものについて抽出を行った。また上記ハブリックや他の建築家の言説にも散見されるエルンスト・ヘッケルの著書『自然の芸術フォルム』を入手し、ヘッケルの学説をもととした建築論の分析を行っている。 これらの分析から、生物的形態の剽窃-幾何学形態、生物学における一元論-二元論、生物機械説-生物生気説といった評価軸を組み合わせることでそれぞれの有機的建築論を位置づけることを現在試みている。
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