本研究の目的は近年我々が発見した2元合金系準結晶の液相からの晶出過程の中性子回折を用いてその場(In-situ)観察することである。この研究を達成するにはいくつかの困難を乗り越える必要があることが当初より予想されていたが、本年は(i)中性子回折用電気炉の改造、(ii)液体Cd-Ybを封入するMoるつぼの開発、(iii)必要量の114Cd同位体の確保、を行った。(i)に関しては、中性子散乱研究施設が保有している電気炉に対して我々のるつぼが共通に使用できるよう、改造を行った。具体的には国内の代表的中性子散乱施設(KENS(KEK)、物性研中性子)で実験が可能になるよう改造を行った。(なお、これらの改造は施設側で費用負担されたので本科研費からは支出していない。)(ii)に関しては高純度Mo金属チューブをAr雰囲気中で封入する技術開発を行った。我々が所有していたアーク炉を改造しほぼ100%の確率でCd-Yb合金を封入する事に成功している。なお、この合金を融点以上まで熱し(800C)封入が完全である事、さらにMo金属の溶け出しが無い事を確認した。(iii)に関しては現在114Cdを製造している国が大変限られている事から、予算配分後十分時間をかけて必要量(約2g)の114Cd同位体を確保する事を実施し、実際確保できた。このように本年度でCd-Yb準結晶および近似結晶の液相からの晶出観察実験を行う準備は完全に整った。残念ながら(主に中性子施設側の)種々のトラブルの為本年度の本実験は達成できなかったが関連する準結晶に関して総合報告を執筆する等、研究機関移籍1年目で研究室立ち上げの時期である事を鑑みると研究はかなり進んだと思われる。来年度始めには中性子散乱実験ビームタイムが既にアサインされており、本格的な実験結果がすぐに得られる物と期待される。
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