初年度は、カップスタック型カーボンナノチューブ(CSCNT)を強化材とし、汎用ポリプロピレン(PP)をマトリックスとしたポリマー系コンパウンドについてその製造条件の最適化を行い、また各種成形方法で試験片を作製して基礎物性の評価を行うことにより、同材料でマイクロ部品の大量生産が可能で、CSCNTの混合量と配向を制御することによりさらなる物性の向上が図れることが明らかとなった。そこで本年度は、その成果に基づいてCSCNTと他のマトリックスとを混合してより優れたコンパウンドを作製し、その性能を評価することを目指した。マトリックスにはポリマー材料としては優れた機械的特性を有し、強誘電性などの特性を持つポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用い、得られたCSCNTコンパウンドにより各種試験片と微小機械要素を作製してその物性を評価した。 CSCNT/PVDFコンパウンドを用いて、マイクロ射出成形によりマイクロダンベル型の引張試験片と圧縮試験片を作製して機械的特性を評価したところ、引張と圧縮ともに弾性率はCSCNT混合量に比例して向上した。また同材料について静電気センサーを用いて測定を行ったところ、CSCNT混合量に比例して帯電防止性が向上することが明らかとなった。これらの結果から、同材料はマイクロマシンなどの分野において剛性が求められる微小機械要素や、帯電防止材などに用いることが有効であると推察された。そこで同材料でマイクロ歯車を成形して遊星歯車を作製したところ、CSCNTを混合しない場合に比べて剛性、稼働時間、帯電防止性がともに大きく向上した。したがって、CSCNTを用いたポリマー系コンパウンドは微小複雑形状の部品加工に対応することができ、かつ軽量性を保ちながら高い物性を実現できることがわかった。
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