本研究は、透過電子顕微鏡内で試料に磁場や電場を印加できるシステムを新たに開発し、その手法を用いて巨大磁気抵抗効果を示すペロブスカイト型マンガン酸化物の磁気微細構造を探求しようというものである。初年度である平成16年度は、以下のような研究を実施した。 1.磁場・電場印加型電子顕微鏡試料ホルダーの試作 汎用の透過電顕用試料ホルダーを改造して、顕微鏡内で磁場・電場を印加するための装置を試作した。具体的には、小型の永久磁石片や、針状の小型電極を搭載できる特殊な試料ホルダーヘッドを作製した。この試料ホルダーヘッドに薄膜化したサンプルを搭載することで、その面内方向への磁場印加が可能となった。また、集束イオンビーム等を利用してサンプルの形状を操作すれば、電子顕微鏡内での電場印加や通電試験も可能になることを示した。 2.磁場印加ホルダー専用消磁回路の作製 電子顕微鏡内で磁場印加の実験を行うと、観察に用いる電子線が大きく偏向され、光軸のズレなど、実験上大きな問題を招く。この問題を解決するために、電子顕微鏡に搭載されている偏向コイルを利用して、磁場印加によって軸ズレを起こした電子ビームの軌道を補正できるようにした。この補正操作を行わない場合、電子線ホログラフィーの実験に要求される高い電子波干渉の条件が損なわれるが、補正を行うことで適切に改善できることを確認した。 3.弱磁場印加による磁気微細構造変化の観察 キュリー温度近傍のLa_<0.81>Sr_<0.19>MnO_3の磁化分布をホログラフィーで観察したところ、強磁性的な領域と、観測し得る磁性を示さない常磁性的な領域が微視的に混在していることがわかった。この状態を示すサンプルに、電子顕微鏡内で磁場を印加したところ、磁束のチャンネルによって離れた強磁性ドメインが結合される様子が初めて観察された。
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