本研究では、自己組織化ポリマーナノ粒子による多色発光素子を開発することを目的としている。今年度も昨年度に引き続き2種類のポルフィリンとポリマーからなるO/W型ミセルを作製し、ポリマーの種類と濃度を変えながらミセルに内包されたポルフィリンの発光挙動を詳細に検討した。用いたポルフィリンはテトラフェニルポルフィリンの亜鉛錯体(ZnTPP)とフリーベース体(FBTPP)であり、ミセル内での分布に応じたZnTPPからFBTPPへの励起エネルギー移動が観察された。光散乱による溶液の白濁などの影響を避けるため、ミセルの濃度は十分に低い状態で実験を行った。実験の結果、ポリマーの種類によりZnTPPとFBTPPの蛍光の発光比率および全体の発光強度が変化することがわかっているが、エネルギー移動によるFBTPP発光が増えているだけでなく、ZnTPPの発光強度も増えていることから、ミセル内のポルフィリン濃度が高いことによる濃度消光がポリマー添加により抑制されていることが示唆される。ポリマーを添加しないミセルの場合には濃度消光が顕著に認められるのに対して、ポリスチレンなどを添加した場合にはそれがなくなることから、高濃度溶液での濃度消光過程は単なる発光の再吸収よりも励起分子の衝突などによる無輻射失活の寄与が大きく、ミセル内のポリマーによりそれが抑制されることが示唆されている。つまり、ミセル内でのポルフィリンの分布や取り巻く環境の違いによって本質的な無輻射失活過程を制御して高濃度の発光素子にできる可能性がある。このミセルについて、tetraethoxysilaneを用いてSiO2の殻で被覆して安定化および薄膜化を試みているが、その発光スペクトルには顕著な経時変化が見られ、最終的にはいずれのケースでもほぼ同じ発光スペクトルに落ち着いてしまうことがわかった。つまりミセル作製直後の非平衡な状態を安定に保持しなければならない問題点が明らかとなり、ミセルに含まれるポリマーだけでなく溶媒も含めた系の再構築が必要であることが判明した。
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