研究概要 |
複合組織鋼材の延性き裂発生を支配する材料損傷挙動を解明するため,対象鋼材として軟質のフェライトと硬質のパーライトの二相組織を有する溶接構造用鋼を用いた。この鋼材から平滑丸棒試験片を採取し,延性き裂発生までの種々の歪レベルまで引張負荷を与えた後,除荷して試験片内部中央をSEMにより観察した。その結果,延性き裂が発生する直前の負荷塑性歪レベルで除荷した試験片の観察から,数μm程度以下の小さなボイドが数多く見られ,そのほとんどがフェライト-パーライト二相境界におけるフェライト相側で生じていた。さらに,このようなボイドは大きな塑性歪の付与により初めて顕著に見られることが確認された。また破面観察から,典型的なディンプルの大きさは破断面近傍の結晶粒径と良く対応し,このディンプルの尾根の部分には先の微小ボイドに対応する小さなディンプルも確認された。これは,延性き裂の発生が,従来から一般に認識されている延性破壊のプロセス(比較的大きな介在物を起点としたボイドの成長・合体)ではなく,き裂発生直前の歪レベルでの微小ボイドの発生が支配的であることを推察させるものである。このように対象とした微視的強度的不均質を有する複合組織鋼材においては,硬度が異なる二相組織境界近傍のフェライト相側(軟質部側)で微小ボイドが急激に増加し始める,すなわち複数個の境界近傍でボイドが生成する条件が満たされることが主たる要因となり,また,これらの微小ボイドどうしが合体,さらにはそれらの相互作用による歪や応力の局在化挙動挙動が最終き裂形成の要因であることも推察された。すなわち,延性き裂発生までの材料の損傷として,負荷開始からのボイドの成長量ではなく,大きな塑性変形を伴って初めて生じる微小ボイトの発生を支配するミクロ構造変化(ナノ・サブミクロンボイドの発生・成長や転位構造変化など)に見いだすべきであることが示唆された。
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