環境に関するセンシングとしては、腐食に最も影響を与える因子である飛来海塩量に注目し、微量な重量変化をとらえることが可能なQCM(水晶振動子微量天秤)法による検討を行った。QCM法では使用する水晶振動子により測定可能な重量が制限されるため、過去の文献で示されている海塩付着量と比較し、共振周波数が1MHz以上の水晶振動子を使用するのが最適と判断した。なお、水晶振動子の共振周波数については、想定する腐食環境の違いに依存すると考えられる。海塩量の測定については、既知の量の海塩を付着させQCMの応答を測定し、重量と周波数変化とによい相関があることを確認した。また、相対湿度を変化させ、QCM測定により付着海塩の吸湿挙動を調査した結果、水晶振動子上の物質の状態(おそらく粘性)によって振動モードが変化することがわかった。これは測定上の問題点であり、今後の検討課題である。 一方、腐食モニタリングに関しては、既存の同心リング型センサー(以下、センサー)の形状やサイズに注目し、その特性を実験室内で検討した。具体的には、温度および相対湿度を制御可能な測定室内で、センサー上に人工海水またはNaCl溶液を滴下し、交流インピーダンス法により腐食速度の連続測定を行った。得られた測定データの精度や測定限界を実験的、理論的に解析し、構造体へ導入するセンサーのサイズや絶縁層の厚さを決定した。導入するセンサーを決定後、炭素鋼製の模擬的な構造体の各部位へ適用し、現在、屋外環境で腐食速度をモニタリング中である。現状では、環境因子に対する腐食速度の変化が顕著にみられており、構造物の各部位の耐食性が十分モニタリング可能であると考えられる。
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