研究概要 |
連続鋳造用モールドフラックスの基本的な系であるCaO-SiO_2-CaF_2系にLi_2O,Na_2O_,K_2Oをそれぞれ添加した急冷ガラスについて,等温過程,加熱過程における結晶析出を速度論的に評価することにより,従来スラグの潤滑性や融点の調整剤として添加されてきたアルカリ金属酸化物がcuspidineの結晶化挙動に及ぼす影響を調査した。 アルカリ金属酸化物の添加により,いずれの場合においても結晶析出量の増加,析出速度の上昇,析出開始までの潜伏時間の短縮化が確認された。ただし,析出量は6mol%程度で頭打ちになり,それ以上では逆にcuspidineの結晶化を阻害することが実験的に確認された。これはCaに配位していたFが他のアルカリ金属イオンに配位し始めるためであり,フラックス設計の際はCaF_2+M_2O=CaO+2MF(M=Li,Na,K)の平衡を考慮する必要がある。 これら析出速度についてJohnson-Mehl-Avramiの解析法ならびにKissingerの解析法を用いてcuspidineの結晶成長における活性化エネルギーを算出したところ,いずれの場合においても活性化エネルギーの低下が確認され,その効果の大きさはLi>Na>Kの順であった。また,活性化エネルギーの値は500kJmol^<-1>程度であり,ガラスの粘性流動の活性化エネルギーに近い値を示すことから,析出過程における律速段階は粘性流動による物質移動律速であると説明できる。 以上よりcuspidineの結晶化において,アルカリ金属酸化物の添加はシリケート中の非架橋酸素の生成による流動単位の細分化が主な原因であり,イオン半径の小さなアルカリ金属酸化物ほど易動度の上昇に寄与することが確認できた。よって,Li_2Oの添加がcuspidineの結晶を促進する効果が最も大きいことがわかった。
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