研究概要 |
金属ナノ粒子の融点は,そのバルクよりも低くなることが知られている。しかしながら,その融点や面方位依存性を測定した例は,きわめて少ない。本研究では,分子動力学法により銅ナノ粒子の融解をシミュレートし,融点を決定する要因を検討した。 表面が(111)と(100)となるように,Cu原子1415〜8217個を配置して,立方八面体を基本とした7種類のナノ粒子を作成し,分子動力学計算を行った。このとき,(111)と(110)の表面積比の異なる粒子を作成した。ポテンシャルはタイトバインディングモデルとし,温度は500〜1200Kの一定温度とした。エンタルピーが不連続に変化する温度から,融点を決定し,この温度におけるエンタルピー変化より融解潜熱を求めた。 以上の計算より,粒子数が少ないほど,融点が急激に低下することがわかった。熱力学より,ナノ粒子の融点T_mは,バルクの融点T_0と以下の関係にあることが導かれる。 (T_0-T_m)/T_0=(σ/L)(dA/dw) (1) ここで,σは固相/液相の界面エネルギー,Lは融解潜熱,dAは融解時の固体表面積減少量,dwは融解した部分の質量である。融点と(dA/dw)の関係を調べたところ,式(1)で表される直線性が得られ,(111)と(110)の表面積比が変化しても,同一の直線性上に載った。期待できるような直線性は得られなかった。これは,一式(1)におけるLが粒径によって異なっている可能性を示唆している。一方,式(1)の左辺と右辺の融解潜熱の逆数との関係を調べたところ,こちらも直線性が得られたが,(111)と(110)の表面積比が異なると異なる直線となることがわかった。(111)の表面積が大きい場合には,融解潜熱は大きく得られた。以上より,ナノ粒子の融解において,表面の面方位は,融点には影響を与えず,融解潜熱に影響を与えることがわかった。
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