昨年度の銅の表面張力測定において、静滴法による測定結果に較べてやや低い値が得られている。銅の表面張力が低下する主な理由は、試料表面に酸素が吸着することであるが、 バルク中の酸素量は十分に少ないことが調査の結果わかった。液滴振動法では試料表面が振動しているため、表面での吸着状況が静滴法とはことなる可能性がある。合金であるステンレス鋼についても同様に表面活性な成分が表面に吸着していると考えられるので、吸着現象に関する調査が不可欠である。そこで、吸着現象について豊富な研究例のある界面活性剤水溶液を対象として、自由落下式液滴振動法による表面張力測定を実施した。測定にあたっては、導電性のない試料でも空中に浮遊させることのできる超音波浮遊法を利用した測定システムを新たに構築した。測定対象は、SDS水溶液、PEGE水溶液である。調査の結果、液滴の表面振動によって吸着状態が変わることはなかった。ただし、落下前の浮遊状態において極めて大きく液滴を変形させている場合には、落下開始時に液滴形状が球形になるのにともなって表面積が減少し、表面の界面活性剤濃度が増加する。このような場合には、表面での界面活性剤濃度の増加が原因で、測定中の表面張力が小さく算出されることがわかった。この傾向は、吸着速度の遅いPEGEで顕著に現れた。 また、蒸発しやすいCrを含むステンレス鋼の表面張力を静滴法でも正確に測定できるようにするために、真空チャンバー中に電子天秤を組み込んだ静滴法用測定装置を新たに開発し、これを用いて蒸発の激しいMgを対象として試験的な測定をおこなった。
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