本研究では、有機溶媒を含浸させたポリマー膜(支持液膜)に酵素反応を組み込み、酵素反応を物質透過の駆動力とする液膜分離システムの構築を行った。具体的には以下の通りである。 加水分解酵素(リパーゼあるいはプロテアーゼ)を非イオン性界面活性剤により分子レベルで被覆し、有機溶媒に可溶な界面活性剤被覆酵素を調製した。この界面活性剤被覆酵素を支持液膜相に溶解させ、酵素内包支持液膜を調製した。これに分離対象物とエタノールを溶解した供給水相と、非被覆の加水分解酵素を含む回収水相を接触させ、物質の酵素内包支持液膜透過挙動を観測した。その結果、リパーゼを含む支持液膜では、リパーゼが基質として認識する有機酸が選択的に支持液膜を比較的迅速に透過することが判明した。またプロテアーゼを含む支持液膜では、プロテアーゼが基質として認識するアミノ酸が選択的に支持液膜を透過することが判明した。詳細な検討の結果、リパーゼおよびプロテアーゼのどちらの場合も、支持液膜相に包括した界面活性剤被覆酵素の働きにより、基質がエチルエステル化され、油溶性が向上し、支持液膜相に分配する。この支持液膜相に移動した基質のエチルエステル体が回収水相側で加水分解され、基質が元の状態で回収水相側にとけ込み、基質の支持液膜透過が達成されることが明らかになった。 これらの結果を踏まえ、エナンチオ選択性を有する酵素を支持液膜相に内包させ、有機酸やアミノ酸の支持液膜透過挙動を検討したところ、支持液膜中に包括する酵素のエナンチオ選択性に応じた有機物の光学分割に成功した。
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