近年、薬物治療において薬物の放出を制御したり選択的に薬物を送り込む薬物送達システム(DDS)が注目されており、放出制御を実現する一手法として生体関連医薬物質を内包するマイクロカプセルの作製が行われている。また、自ら感じ、判断して、適切な行動をおこす能力を有する「インテリジェント材料」が注目されている。生体関連医薬物質を内包するカプセルにインテリジェント機能を付与すれば、外部環境の変化に応じて、適切な量の薬物を適切な速度で放出することが可能になると期待される。 本研究の目的は、環境の変化に応答して内包物質の放出速度を自律的に制御するインテリジェントなカプセルを創製することである。本年度は、感熱性カプセルの作製に先立ち、その材料となる感熱性ポリマーゲルを作製し、その感熱特性を評価した。系として、下限臨界溶液温度(LCST)を有し、LCST以下で膨潤、LCST以上で収縮の構造変化を示すN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)と、感熱性を有さないメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)との共重合体ゲルを選定した。まず、種々のモノマー比でゲルを作製し、その膨潤率の温度依存性を評価した。いずれのモノマー比でも、20から50℃では温度に伴い膨潤率が低くなり、20℃以下、50℃以上では膨潤率に変化は無く、各々のゲルは20から50℃の間で感熱性を示すことがわかった。そしてNIPAAmの割合が高い程、温度による膨潤率変化が大、つまり感熱性が大きかった。すなわち、NIPAAmとHEMAのモル比を変えることで多様な感熱性を有する物質が作製可能であることが分かった。また、いずれのゲルの感熱性も可逆であった。 次年度は、ゲルの作製段階においてインシュリンを内包することで、温度に応じてインシュリンの放出制御を可能とするインテリジェントカプセルの創製を行う予定である。
|