近年、薬物治療において、薬物の放出を制御したり選択的に薬物を送り込む薬物送達システム(DDS)が注目されており、放出制御を実現する一手法として生体関連医薬物質を内包するマイクロカプセルの作製が行われている。また、自ら感じ、判断して、適切な行動をおこす能力を有する「インテリジェント材料」が注目されている。生体関連医薬物質を内包するカプセルにインテリジェント機能を付与すれば、外部環境の変化に応じて、適切な量の薬物を適切な速度で放出することが可能になると期待される。 本研究の目的は、環境の変化に応答して内包物質の放出速度を自律的に制御するインテリジェントなカプセルを創製することである。前年度までに、感熱性カプセルの作製に先立ち、その材料となる感熱性ポリマーゲルを作製し、その感熱特性を評価した。系として、下限臨界溶液温度(LCST)を有し、LCST以下で膨潤、LCST以上で収縮の構造変化を示すN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)と、感熱性を有さないメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)との共重合体ゲルを選定し、NIPAAmの割合が高いほど感熱性が大きいこと、また応答性が可逆であることを示した。 本年度は、ゲルの作成段階において、タンパク質を含む水溶液を用い、タンパク質内包ゲルの作成を試みると共に、ゲルからのタンパク質放出特性について検討した。モデルタンパク質には牛血清アルブミン(BSA)を用いた。BSAを溶解させたままゲル化反応を行うことで、ゲル1g当たり0.2gのBSAを含む、タンパク質含有率の高いゲルを作製した。また、種々の温度で放出実験を行い、低温におけるゲル膨張時よりも高温におけるゲル収縮時の方がBSA放出速度は高いことを示した。すなわち、温度によって放出速度を制御可能なゲルの作製に成功した。
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