シリカ化合物MCM-41(以下M41)はナノサイズの均一な細孔構造を持ち、高い比表面積(1000m^2/g)を示す。すでに昨年度までの検討によりこのシリカ化合物は不純物(たとえばアルミニウムなどの金属原子)によらない酸性質を有すること、超強酸性が必要とされるカルボン酸を有効に活性化できることなどを明らかにしている。平成17年度はこの酸特性の拡張を検討した。 1)S_N1機構が優先するエポキシドの立体選択的水和、アルコール付加 エポキシド類は酸触媒存在下で活性化され、水、アルコールなどの求核付加を受けるが、通常S_N2機構で進行するためトランス開環する。本研究では1-フェニルシクロヘキセンオキシドをM41の酸触媒特性を利用して不加開環させると、広い基質一般性を持ってシス開環体が得られることを見出した。反応点に強い電子供与効果が作用するとシス開環体が混入することが知られているが、M41が示すシス選択性は知られているどの均一系触媒よりその能力に優れていた。求核剤としては水のほかアルコール類が適用化であり、嵩高いアルコールが特にシス体生成に優れていた。 2)M41および金属担持M41による多成分縮合反応 M41の酸特性がアルデヒドとジアゾエステルとの脱窒素縮合反応によるβ-ケトエステル合成、ならびにβ-ケトエステル、アルデヒド、尿素またはチオ尿素の三成分縮合反応(Biginelli反応)の触媒として有効であることを見出した。またこれらの酸触媒反応に対してはM41にアルミニウムを担持させるとより高活性を発揮することを明らかにした。さらに上の二つの反応を組み合わせ、これまでに報告例のないワンポット四成分縮合によるジヒドロピリミジノン類の合成を達成した。これらの反応はいずれもM41のメゾ細孔構造が重要であり、ナノ空間構造を持たないシリカ化合物は触媒活性を示さなかった。
|