本申請者は現在までにリン脂質の特性を変換する酵素(ホスホリパーゼD:PLD)を微生物より同定し、その遺伝子配列の同定、反応特性解析、および大腸菌での発現系を構築してきた。そして更に、種々のアミノ酸残基に置換した変異型PLDを用いた解析より、野生型と比較して比活性にて約5倍の高い活性を有している機能的な酵素の創成に成功している。この変異体PLDは野生型と比較して高活性を示すほか、異なった基質特異性も確認された。この事より、新しいリン脂質の合成に際して、効果的な触媒として作用する事が期待される。以上の研究背景より、本研究では認識分子を持ったリン脂質をPLDにより効率的に合成できる酵素反応プロセスを構築し、更に合成した機能性リン脂質のがん細胞ターゲティング機能の評価を行う事を目的とした。 本年度は、リン脂質代謝酵素ホスホリパーゼDの蓋構造領域内のヒドロキシル基を有するアミノ酸(S413、Y416、S417)に変異を導入した変異体酵素を分子進化的手法にて作成した。その結果、構築できた種々の変異体において(S413N、S417T、S417A)、リン酸基転移反応活性は有しているが、いずれも野生型より低い活性であることが確認された。そこで、GG/Sモチーフにセリン残基を導入し活性が向上した変異体G215S、本研究で作製した失活した変異体S418H、活性が低下した変異体S413N、S417T、S417Aと、さらに野生型(W.T.)の立体構造を推測し比較した。その結果、低いながらも活性を有した変異体(S413N、S417T、S417A)、失活した変異体(S417H)共にLid領域が肥大していた。高活性変異体G215SはLid領域が野生型に比べて縮小していることが確認されている。これよりLid領域の肥大はわずかであっても酵素活性に悪影響を及ぼしたといえる。この結果から、蓋構造領域の構造変化が活性中心部位への基質の取り込みを阻害していることを見出すことが出来た。
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