浮遊系微生物集団とは異なる特殊な環境場を提供するバイオフィルムモデルについて、金属表面への微生物付着に関する検討を行った。廃水環境中より分離した通性嫌気性菌Providencia sp.WW2株の細胞付着特性を検討したところ、初期付着能に関しては細胞増殖期の違いにより付着量に顕著な差が認められ、細胞の生理特性や細胞密度が付着に何らかの影響を及ぼしている可能性が示唆された。一方、成熟バイオフィルムの形成能について検討したところ、ステンレス鋼表面への本菌の付着量は、NaCl濃度15g/dm^3のとき最大となった。微生物の金属材料表面への付着を防止するため、複合めっき法により、抗菌性微粒子である銀担持リン酸ジルコニウム(AgZ)を含むAgZ-Feめっき層を鉄板表面上に作製した。WW2株を供試菌として調製した複合めっきの抗菌活性を検討したところ、銀担持率3.7wt%のAgZを含むめっき鉄板上では、めっきを施していないものに比べ、3.2倍高い細胞死滅速度定数が得られ、AgZ-Fe複合めっき面の抗菌効果が確認できた。 また、バイオフィルム内の細胞/細胞間相互作用の一つとして、遺伝子の水平伝播現象(自然形質転換)に着目し、微生物が示す自然形質転換能を定量的に評価する指標を策定するため、大腸菌DH5α株のプラスミドDNAによる形質転換を速度論的見地から解析した。Arrhenius式に従って、形質転換頻度(形質転換細胞数/全生細胞数として定義)を温度に対応して相関し、形質転換反応に伴うエネルギー変化を示す速度論パラメーターとしてΔUを求めた。また、形質転換プロセスの定量的評価指標として、Y_<N_<T.273>>(273Kにおけるプラスミド基準の形質転換収率)を提案した。
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