本研究は、微生物由来トランスグルタミナーゼ(MTG)のタンパク質翻訳後架橋化機能を活用することで、タンパク質の特定部位を選択的かつ共有結合的に基盤状に固定化するための技術を開発するものである。本年度は、(1)MTG認識ペプチド配列の遺伝子工学的手法による対象タンパク質への導入と、(2)ペプチドタグ特異的固定化を可能にする基盤表面処理法、の2点について集中的に検討を行った。まず、遺伝子工学的手法により、大腸菌由来アルカリホスファターゼ(BAP)の遺伝子をクローニングし、そのN末端にMKHKGSの配列からなるペプチドタグ(K-tag)を導入した組換えBAPの大量発現に成功した。次に、固定化基盤として、ポリアクリル酸樹脂と96穴型ポリスチレンマイクロプレートを選択し、それぞれの基盤表面をMTGの良い基質として知られるカゼインにより化学的あるいは物理的に修飾した。最後に、K-tag付加組換えBAPとMTGを、カゼイン修飾担体とともに常温で温置することにより、N末端ペプチドタグ特異的なタンパク質固定化に成功した。ポリアクリル酸樹脂系では、固定化BAPは10回の繰り返し使用においても完全に活性は保持され、共有結合的かつ安定に対象タンパク質が固定化されていることが示唆された。また、マイクロプレートへの固定化においては、架橋化により高分子化したカゼインで基盤表面を修飾することにより、対象タンパク質の固定化量を著しく向上可能なことが明らかとなった。さらに、新たな展開として、MTGによりN末端アミノ基選択的なタンパク質修飾が可能であることを見出した。以上の成果を論文3報にまとめ、高い評価を得た。
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