本研究は、高密度プラズマ中での重イオンのエネルギー損失を測定することにより、プラズマ阻止能における強結合効果を実験的に調べることを目的としている。前年度開発した高密度プラズマ標的生成装置の放電電流路を低インダクタンス化し、薄膜への注入パワーの増大を図った。これにより、アルミニウムまたは炭素の薄膜に最大で30kA程度の放電電流を流すことが可能になった。また、薄膜自身の大きさも5mm×5mmと小さくすることで、単位体積あたりの注入エネルギー量を増大させることで、より高温のプラズマを生成することが可能になった。このプラズマ標的を放射線医学総合研究所のHIMAC加速器のビームラインに設置し、重イオンとプラズマの相互作用実験を行った。相互作用実験では、核子あたり4.3MeVのエネルギーを持つ珪素及び酸素イオンをプラズマ標的に入射し、飛行時間差法により標的内での重イオンのエネルギー損失量を求めた。その結果、放電開始直後は測定されたエネルギー損失量がほぼ一定であるが、放電開始から数100nsの時間が経つとエネルギー損失量は徐々に減少する様子が観測された。これはプラズマの膨張が1次元的ではなくなり、標的の面密度が時間とともに減少したことが原因であると考えられる。プラズマ効果によるエネルギー損失量が増大する様子は、測定の誤差が大きいこともあり、現時点では観測されていない。目的とする強結合効果を観測するには、薄膜放電プラズマの閉じこめを積極的に行うことで、より高密度のプラズマ標的を生成する必要があることが分かった。
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