研究概要 |
高レベル放射性廃棄物ガラス固化体は、約1000年の長期間、含有する放射性核種を安全に閉じ込めておかなければならない。ガラス固化体中の放射性核種は、ガラス構造のゆらぎで生じる構造空隙に閉じ込められていると考えられる。この構造空隙の大きさが、放射性核種閉じ込めに影響を及ぼすと考えられるが、それを評価できる実験手法がほとんどないため、構造空隙に関することは未だよくわかっていない。 陽電子がガラス中に入射するとポジトロニウム(Ps)が生成する。Psは構造空隙で消滅するため、その構造空隙の寸法を見積もることができるユニークなプローブである。放射性廃棄物ガラス固化体の模擬ガラスは非常に多くの酸化物成分を含有し複雑な構造である。そのため、本研究では放射性廃棄物ガラス固化体に多く含まれている成分に着目し、SiO_2を主成分とする各種2成分系モデルガラスを製作しPsをプローブとして構造空隙の寸法について系統的に調べた。即ち、オルソPs(o-Ps)のピックオフ消滅寿命(τ_3)から、高分子中の自由体積解析に使われているTao-Eldrup-Nakanishi-Jean模型を用いて、各種ガラス中の空隙の平均半径の化学組成依存性を求めた。ガラス網目形成体であるB_2O_3、 GeO_2を添加したガラス中の空隙平均半径は2成分ガラスのモル濃度比に比例して変化する。一方、網目修飾体であるLi_2O、Na_2O、K_2Oを添加したR_2O-SiO_2ガラス(R=Li, Na, K)では、R_2Oモル濃度が増加すると、平均半径が急激に減少する。これは、これらのガラスではSiO_4四面体が作るガラス網目の構造空隙にRイオンが入り込むためである。このことは、Zachariasen-Warrenガラス構造模型から期待される空隙を直接かつ系統的に観測した結果である。以上のような構造空隙に関する知見は、ガラス固化体中での放射性核種イオンが空隙に安定に存在することを評価する上で重要なものではないかと考えられる。
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