がんの硼素中性子捕捉療法(BNCT)では細胞核へのα/Li線のヒット効率が治療効果を左右するゆえ、真に細胞レベルのマイクロドシメトリ(または硼素分布測定)が必要とされる。 我々は中性子誘起αオートラジオグラフィ(αARG)法を高度化し、αトラックと細胞像を同一のCR-39表面に記録・現像、AFMで観察する手法を開発してきた。さらに分子標的創薬で必要とされているオルガネラレベルでの計測を目的として細胞試料像の高精細化を試みた。 細胞組織試料を化学固定・エポン樹脂に包埋した後、300nm厚に切片化したものをCR-39に載せ、UV強度約0.5mW/cm2で5時間照射した後、エタノール中にて洗浄した細胞切片そのもののAFM画像では、通常の紫外線透過像のみでは観察できなかった微細な細胞内構造も高分解能に撮像できることがわかっている(2004年度実績)。この細胞切片直接観察画像と、CR-39に記録された細胞UV像・αトラック同時観察像とを重ね合わせることによってオルガネラレベルでの細胞内硼素分布計測が可能である。さらに本年度はppmレベルの硼素検出を行ないやすくするため、1μm厚の切片についても直接観察を試みたところ、超薄切片と同等の細胞内微細構造像を得ることができた。また、より生体内に近い条件下での測定を行なうため試料細胞内の元素移動が起こりにくい高圧凍結固定試料についても同様な観察を行なったところ、細胞内微細構造像の取得が可能であることもわかった。 αARGを行なうための中性子照射条件についても、空気中の窒素からのバックグラウンドを低減するために酸素封入して照射する手法を考案した。本手法を用いてBNCT用加速器中性子源の評価なども行なった。 これらの成果によりBNCTで急務とされる新規硼素薬剤開発のための硼素薬剤の詳細な局在情報の取得や、各種中性子源の特性評価などが可能になるものと考えられる。
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