エネルギー準位の同位体シフトを利用する同位体選択的共鳴イオン化質量分析に着目し、これを波長可変狭帯域半導体レーザーベースのコンパクトなシステムで実現するため、高分解能分光法で常に問題となるドップラー拡がり効果を簡便に抑制できることが期待されるドップラー速度選択方式共鳴イオン化質量分析法を考案した。本手法は、レーザー波長をある同位体の吸収波長に合わせたとき、他の同位体はその同位体シフトに相当する分だけ異なった速度を持つものが共鳴吸収・イオン化されることに着目し、その僅かな速度差により同位体を分離・測定するものである。 イオン引き抜き系の電場計算とイオン輸送モンテカルロ計算により、本方式の実現可能性を検討した結果、現実的な装置規模で十分に各同位体の弁別が可能であることを見出した。また、上記の検討結果をもとに設計した試作分析装置により、1mm幅のスリットを設置することでドップラー拡がり効果を抑制することに成功し、さらにCa-40とCa-44を選択的に測定することに成功した。これらにより実験的にも本方式の原理を実証できたといえる。 現状の試作装置における同位体選択性を評価したところ、Ca-44/Ca-40=15という結果が得られた。また、レーザー出力等の測定条件の検討、多色多段イオン化スキームの採用により、同位体選択性Ca-41/Ca-40=1.5×10^8が得られることを見出した。さらにイオン引き抜き系の最適設計、連続発振レーザーによる試料の蒸気化を行うことで検出効率についても更なる改良が見込まれる。
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