昨年行った装置開発により、時間分解マイクロ波伝導度(TRMC)・光過渡吸収(TAS)同時測定が可能になった。本年度は、この装置を用い、π共役系高分子(ポリチオフェン)とσ共役系分子(ポリシラン)を対象として、測定および解析を行った。電荷キャリア生成効率を高めるためそれぞれテトラシアノエチレン(TCNE)とプラーレンを添加した系で、光励起によって電荷キャリアを生成する系を試した。ポリシランの系では側鎖アルキルの長さと伝導度に相関関係が観測され、アルキル鎖長が6の時、最も高い伝導度を与えた。このことは電荷キャリア輸送が高分子のコンフォーメーションに大きく依存することを示しており、有機ELや有機トランジスタ材料として利用する上で重要な知見を与えると共に、この測定手法が材料開発・評価において有効であることを実証した。また、ポリチオフェンでは、TRMCの信号、つまり電気伝導度が2桁近く上昇する現象が始めて観測された。光過渡吸収を同時に測定したが、吸収強度はTCNEの濃度を増加させると、若干(20%程度)増えたが、TRMC信号のような2桁にわたる増加は観測されなかった。伝導度は電荷キャリアの濃度と移動度の積である。光過渡吸収スペクトル・時間挙動の解析から、ポリチオフェン中の正の電荷キャリアの移動度が増加していることが導かれた。この結果は電化キャリア輸送媒体としての共役高分子の高機能化を示しており、太陽電池や有機トランジスタへの応用において新たな展開が期待される。
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