固体高分子形燃料電池(PEFC)は発電性能向上のために、出力低下や耐久性の低下を抑える必要がある。しかし実規模スケールのセルにおいて、電極面積の拡大に伴い、これらの性能低下が顕著になるという報告がされている。研究者はその原因を構成部材の一つである拡散層を通じてのガス流路間のリークと考えた。拡散層は多孔質体であり、そのリーク量は拡散層の透過率に依存するが、前年度までに、透過率に及ぼすガス流量、電流密度、発電時間および締め付け圧力の影響を定量的に評価した。そしてこれらの値を基に、拡散層内ガスリーク量とカソード側酸素物質移動速度をモデル化し、発電時の拡散層内の対流拡散現象を含む実機規模のセルにおけるPEFC反応流動連成解析コードを開発した。今年度はこの数値解析モデルを用い、流路長や流路深さの影響について検討し、流路部が高圧損になるほど流量不均一は顕著になり、蛇行流路等の流路に沿った流れから、供給ガスの入出口間を通る流れヘシフトする傾向が見られた。特に折り返し部において近接する流路間の圧力差が高くなるため、この箇所の最適化を試みた。一つの方法として折り返し部を分散させた流路構造を作成し解析を行った。その結果、流量分布が均一化され、ガス欠乏に伴う低電流密度域の発生を抑制でき、電流密度が均一化された。また複数点で拡散層内のリーク流れが生じるため、操作条件によってはセル電圧の向上も確認できた。本研究成果はPEFC内部のガス流動状態の予測のみならず、セル構造の最適化に応用することができ、PEFCの高性能化に貢献できるものと考える。
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