研究課題
Background:『非相同的組換え』とは、相同性の全く無い、或いは短い相同性の有る塩基配列同士で起こる組換えを謂い、ゲノム再編成の原因となる。ゲノムの再編成は、癌化や老化、進化に寄与する。既に私達は、大腸菌に於いて、非相同的組換えを定量的に検出する系を開発し、紫外線等の『外因性の(exogenous)ストレス』に依って非相同的組換えが誘導される事を示し、此の過程に関与する多数の遺伝子を同定している。更に私達は、其の分子機構として、「外因性のストレスに依ってDNA二重鎖切断が誘導され、其れに依って生じたDNA末端が、非ぬもの同士で再結合し、組換えが起こる」とする、所謂『"break-and-join"モデル』を提唱している。しかし乍ら、此の様な外因性のストレスに依る遺伝子変異の《実存》に対する批判として、「遺伝子変異を誘導する程の《強い》外因性のストレス等、天然環境には存在しない為、進化には寄与せず、矢張りネオ・ダーウィニズムのドグマ曰く『環境要因と遺伝子変異は無関係』である」と云った批判が在る。Results & Discussion:其れに対して私達は、(1)内因性のストレスが生じる増殖静止期に於いて、非相同的組換えが誘導される事を見出した。天然環境に於いて細胞は、増殖静止期に置かれているのが通常なので、増殖静止期に誘導される非相同的組換えは、進化に寄与し得る遺伝子変異であると思われる。既に増殖静止期には、非相同的組換え以外にも"adaptive (point) mutation"や"adaptive amplification"が誘導される事が知られているが、此れ等の原因は不明の侭であった。其れに対して私達は、(2)増殖静止期に非相同的組換えが誘導される時、同時に『DNA二重鎖切断』も誘導される事から、DNA二重鎖切断が此れ等の遺伝子変異の原因では無いかと考えた。何故ならば、何れの遺伝子変異もDNA二重鎖切断に依って説明する事が出来るからである。従って、DNA二重鎖切断は、細胞が増殖静止期に入った時に起こる遺伝子変異の《最初の段階》又は《信号》の役割を果たしている事が考えられる。更に私達は、(3)アルキル化したDNAを修復する遺伝子の変異株では、非相同的組換えとDNA二重鎖切断の両方が野生株に比べて高頻度に起こる事から、増殖静止期に促進されるDNAのアルキル化がDNA二重鎖切断の原因であって、増殖静止期に誘導される遺伝子変異の原因となる内因性のストレスとは、DNAのアルキル化では無いかと考えている。斯様に細胞は、自らの増殖にとって不利な環境に置かれると、様々な遺伝子変異を増加させ、其の環境に適応しようとしているが如くであって、斯かる状況で再び細胞が増殖を開始すれば、其の環境に適した変異体が優先的に増殖し、進化が起こる事が考えられる。
すべて 2004 2001
すべて 雑誌論文 (2件) 産業財産権 (1件)
J.Biol.Chem. 279
ページ: 45546-45555
Adv.Biophys. 38
ページ: 3-20