研究概要 |
深海底に生息するメイオベントスの中で,ソコミジンコ類は優占的に出現する分類群であり,Cerviniidae科は,この深海性ソコミジンコ類の典型的グループの一つである.相模湾中央部・漸深海底に設置された観測点(水深1430m,35°00.0'N,139°22.5'E)において,この科に属するソコミジンコの10cmと数100mスケールで生じる空間変異を,マルチプルコアラー採泥器で採集されたサンプルを元に測定した. Cerviniidae科の成体の平均個体数密度は,約1.0×10^3inds./1m^2で,全ソコミジンコ類の成体に占めるこの科の割合はわずか3%であった.しかし,これらの体サイズはソコミジンコ類の中では最大クラス(>1mm)であり,そのため全生物量に占めるこれらの生物量(8.3mg DW/1m^2)の相対値はかなり高いもの(約15%)となった. 観測点に生息するCerviniidae科の種の中で,最も優占的だったのはNeocervinia itoiで,全個体数に占める本種の割合は約90%であった.数100mスケールでは,N.itoiの成体の個体数密度の空間変異に有意な差は検出されなかった.また,10cmスケールでは,本種の成体はランダム分布をしている事が示唆された.さらに,相関解析の結果からは,N.itoi成体の個体数密度と,マクロベントスの個体数や海底堆積物中の生物由来の構造物(主にゴカイの棲管)など,ある種のソコミジンコ類の分布に影響を与えると期待されていた環境要因との間に有意な関係は見出されなかった.N.itoiは,海底直上の海水中(ただし密度は堆積物中より低く,平均約1.2×10^2inds./1m^2)にも存在しており,本種が高い遊泳能力を持っている事が示唆される.本種の空間分布と海底上の異質性との間に強い相関が見られなかった原因の一つとして,この高い遊泳能力が考えられる.
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