研究概要 |
生物多様性の緯度クラインと性淘汰圧の緯度クラインの関係について調べた.メダカ属魚類(Oryzias)は,日本を含むアジア・東南アジアに約20種生息しており,その多くが熱帯域に分布している.赤道直下のセレベス島(インドネシア共和国)にてメダカ属魚類6種の採集を行い,各種の性的二型の程度(尻鰭の長さおよび体色の二型)を定量化したところ,高緯度の同属種に比べ二型の程度が極端に大きいことがわかった.これは,本島のメダカ属魚類が,非常に強い性淘汰圧にさらされていることを示唆している.また,日本のメダカ(O.latipes)について,緯度の異なる9地点(青森県十三湖,秋田県能代,秋田県五城目,新潟県鶴岡,新潟県村上,新潟県柏崎,石川県氷見,福井県芦原,および京都府舞鶴)から採集した野生個体の尻鰭の形態を比較したところ,低緯度の集団ほど性的二型の程度が大きいことがわかった:低緯度ほど雄の尻鰭が長い一方,雌の尻鰭の長さは緯度間で差が無かった(あるいは若干高緯度の方が長かった).また,実験室で孵化させたこれら9集団の稚魚(第二世代)を共通の環境条件(28℃,14L:10D)のもとで発生/成長させても,低緯度集団に由来する雄ほど尻鰭が長くなる傾向があり,尻鰭の性的二型の緯度間変異には遺伝的基礎があることが明らかになった.これらの事実は,同じメダカ種内においても,低緯度集団ほど強い性淘汰圧にさらされていることを示唆している.
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