研究概要 |
クチキゴキブリ属(オオゴキブリ亜科)における家族構造の把握とマイクロサテライト領域の探索のため,5月に鹿児島県屋久町に赴き,エサキクチキゴキブリSalganea esakiiを採集した。これまでの予備的な調査の通り,5月は有翅虫生産の時期にあたり,多数の雌雄の成虫ペアを採集することが出来た。飼育下において,産卵するペアが1例観察されたが,産子数は一般的なオオゴキブリ科の分類群に比べると少ない(約20個体)ことが明らかとなった。明確な家族性の社会構造をもち,子虫への保護育成行動が発達していることが影響していると考えられる。現在,引き続き飼育を続け,社会構造の発達に伴う子虫間の利他行動の差異を検出することを試みている。マイクロサテライトの探索は,非RI(ビオチン)標識したプローブを用いる方法を使用した。まず,複数家族の個体からトータルDNAを抽出し,RAPD法を用いて多数のDNA断片を得た。GA^<10>,AT^<10>,GC^<10>,GT^<10>の4種類のプローブを用い,Imaging-High (TOYOBO)を使ってプローブと結合するドットを検出した。次に,ポジティブなドットからスクリーニングを繰り返し,候補となるマイクロサテライト領域を挟むプライマーをいくつか設計した。現在いくつかの候補領域が得られており,近々多数のサンプルにおける多型の有無とアリル数の確認を行う予定である。キゴキブリに関しては,北米産のサンプルCryptocercus speratusの複数家族をC.A.Nalepa博士(ノースカロライナ州立大)から送付してもらい,上述と同様の方法でマイクロサテライトの探索を開始した。なお,北米産のキゴキブリは,マイクロサテライトを含む様々な遺伝マーカーを利用して,集団間レベルでの遺伝的差異の検出も試みている。現在のところ,極めて近接した個体群間(特にアパラチア山脈のノースカロライナ州内)においても,非常に大きな遺伝的な差異が存在することが示唆されている。
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