小笠原諸島では移入生物による生態系の撹乱が深刻化している。それと同時に在来生物の絶滅が進行している。この中でも移入生物のグリーンアノールとセイヨウミツバチは小笠原の生態系に重大な影響を与えたといって良い。まず、グリーンアノールは父島と母島に生育しており、両島ではほぼ固有性の高い昆虫相はグリーンアノールによって壊滅したと言われている。一方で、セイヨウミツバチは戦後養蜂業のために持ち込まれ、固有ハナバチ類と競合関係にあると言われている。現在では固有ハナバチ類がグリーンアノールによってほぼ絶滅した父島や母島ではセイヨウミツバチが固有樹木の送粉を行っている可能性が高い。そこで、本研究では移入生物によって撹乱されている父島、母島と、固有昆虫相が残っている属島の両地域に分布する固有樹木ノヤシを研究対象に取り上げ、両地域間の送粉パターンの比較を行うことにより、移入種による生態系撹乱が固有種の送粉パターンに与える影響について明らかにする。 本年度は調査地の選定、個体位置図の作成、マイクロサテライトマーカーの開発を行った。調査地の選定にはノヤシの天然分布である父島、母島、兄島、母島の属島である向島の分布地を周り、分布パターンの調査を行った。その結果、詳細な調査及び位置図の作成は母島及び向島が可能と判断された。そこで、母島においては、母島の主稜線および都道からの目視によりノヤシの位置と本数を特定し、その後、ノヤシの位置に向かいGPSによってノヤシの位置を特定する方法を採用した。主な分布地である小屋の沢、石門、長浜では終了したが、桐浜はまだである。向島においては個体密度が高いためにコンパス測量によって位置図の作成を行ったが、全個体の測量は終了していない。マイクロサテライトマーカーの作成に関しては、濃縮ライブラリの作成に成功し、マイクロサテライト部位を含むシークエンスを200程度収集することに成功した。
|