小笠原諸島では移入生物による生態系の攪乱が深刻化している。それと同時に在来生物の絶滅が進行している。この中でも移入生物のグリーンアノールとセイヨウミツバチは小笠原の生態系に重大な影響を与えたといって良い。まず、グリーンアノールは父島と母島に生育しており、両島ではほぼ固有性の高い昆虫相はグリーンアノールによって壊滅したと言われている。一方で、セイヨウミツバチは戦後養蜂業のために持ち込まれ、固有ハナバチ類と競合関係にあると言われている。現在では固有ハナバチ類がグリーンアノールによってほぼ絶滅した父島や母島ではセイヨウミツバチが固有樹木の送粉を行っている可能性が高い。そこで、本研究では移入生物によって攪乱されている父島、母島と、固有昆虫相が残っている属島の両地域に分布する固有樹木ノヤシを研究対象に取り上げ、両地域間の送粉パターンの比較を行うことにより、移入種による生態系攪乱が固有種の送粉パターンに与える影響について明らかにする。 昨年度の分布域の調査によって、実際に調査可能な地域を母島と向島に絞り込んだ。母島においては調査域内の全ての個体を周り、GPS測量などにより個体の位置図を完成させた。向島においては予備調査は終了しているが、全個体の調査は来年度行う。昨年度までにマイクロサテライトマーカーを作るための濃縮ライブラリーを完成させていた。そこから48組のプライマーを設計し、12プライマー組でマイクロサテライトマーカーとして利用可能であることが見いだせた。この数は本研究を遂行するに十分な数である。よって今年度までに本研究を遂行するための材料は向島のデータを除いて全て揃えることが出来た。
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