研究概要 |
海洋生物の個体群特性は近年,人為的要因により地球規模で変動していることが,懸念されている.特に,国外からの外来種の移入や,地球温暖化による分布域の極域への移動が問題視されている.しかし,少なくとも海岸生物では,10年以上かつ10×10km^2以上という時空間規模で個体群特性を研究した例はない.そこで,私は,過去四半世紀における沖縄〜北海道の太平洋岸の岩礁海岸産貝類について,外来種の増加傾向と,種ごとの分布域の変動とを調べた.計3回の調査(1978〜9年,1984〜6年,2003年)の結果を比較した.1978〜9年と1984〜6年との調査は環境省が行い(「海域生物調査」),2003年の調査は私自身が予備的に行った.各調査では約37個の岩礁海岸の潮上帯〜中潮帯において0.25m^2コドラートを9個ずつ設置し,出現生物を計数した.解析の結果,シマメノウフネガイ,ムラサキイガイなどの外来種それぞれの密度の指数は,安定もしくは減少傾向にあった.また,全調査に共通して出現した68種のうち,分布域の北限を北上させた種(41種)は,南下させた種(20)よりも多かった;一方,分布域の南限を北上させた種(28種)は南下させた種(27)とほぼ同数だった.以上のように,「外来種の増加」「地球温暖化による地理的分布域全体の北上」という懸念は,今回の解析結果にはあてはまらない.今後,精度の高い調査をおこなって,近年の岩礁性貝類の個体群特性の変動を正しくとらえる必要がある.(なお,赤道に地理的分布域の近い種を温暖種と定義し,温暖種の出現頻度の増加傾向を解析することを,2004年度当初の計画としていたが,種それぞれの地理的分布域の資料の入手しにくさからこの解析を行っていない.)
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