カワウによる森林への物質輸送が昆虫相に与える影響について調べた。琵琶湖のカワウ営巣林において、対照区、営巣区(営巣2年目、6年目)、営巣放棄区(放棄後2年、4年、8年、12年)の7つの調査区域を設置し、地表付近の昆虫類、リター(落葉落枝)、林床植物、カワウの糞を定期的に採集した。また、随時カワウの遺骸や吐き出し魚も採集した。 その結果、5-7月には少なくとも37科98種の甲虫類が採集された。それぞれの甲虫類を、捕食性、腐肉食性、腐植食性、菌食性、材食性、植食性、などの食性によって科毎の機能群に分類し、出現密度や多様度を比較したところ、機能群多様度は営巣区で低く、営巣放棄区では対照区と同レベルかそれ以上だった。一方対照区との類似度は営巣区で低く、営巣放棄直後は高いものの、放棄後時間を経た区域では再び低くなった。機能群ごとに見ると、営巣区では、死骸や吐き出し魚などの動物性有機物を食物とするシデムシ類が圧倒的に優占し、植物の材を食べる材食性の甲虫類も多かった。一方営巣放棄区では、植食性や腐植食性の甲虫類が多かった。また、腐食連鎖系の捕食者は、営巣区と営巣放棄区の両者で対照区より多くなっていた。これらの結果から、カワウの営巣によって地表性甲虫相は単純化し、多様度が低下するが、営巣放棄後には多様度が回復することがわかった。しかし、放棄後の甲虫相は、対照区とは異なる機能群組成となり、類似度が低いことが明らかとなった。 昆虫類の食物資源と考えられるリター、林床植物、糞については、生物量の測定を進めている。また、代表的な甲虫類数種については、安定同位体比の試分析を行った。今後は、野外調査の継続とともに、生物量や同位体比の分析を進め、長期にわたる食物資源の質的な変化が、森林の昆虫相に与える影響を明らかにしていく
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