研究概要 |
カワウによる森林への物質輸送が甲虫群集に与える影響を調査した。琵琶湖のカワウ営巣林において、対照区、営巣区(営巣2年目、6年目)、営巣放棄区(放棄後2年、4年、8年、12年)の7つの調査区域を設置し、地表付近の甲虫類、リター(落葉落枝)、林床植物、高木層の被覆度、カワウの糞や死体、吐出魚を採集した。 採集された甲虫類は、食性によって科または亜科毎の機能群に分類し、機能群数、多様度、均等度および各調査区間の類似度を算出した。多様度と均等度は放棄後2,12年の営巣放棄区において高く、特に放棄後12年の営巣放棄区では、他の調査区と比較して甲虫群集の類似度が低かった。どの調査区においてもシデムシ類などの腐肉食者が優占しており、カワウの死体や吐出魚が直接供給されない放棄後10年以内の営巣放棄区においても、腐肉食者は多かった。その一方、営巣放棄後は、植食者やその捕食者などの生食連鎖に属する甲虫類が増加した。腐肉食者密度は、カワウの死体および吐出魚量と有意な相関が見られ、直接の餌供給が腐肉食者の増加を促進していると考えられた。植食者については、営巣放棄区で高木層の被覆度と負の相関が見られた。高木層の被覆度は林床植物量と負の相関があったため、カワウの営巣により高木層の被覆度が低下し林床草本が増加することが、植食者の増加を促した可能性が考えられた。これらのことから、カワウ営巣地では、死体の供給という直接効果により腐肉食者が増加すること、営巣放棄後しばらくは、直接効果のタイムラグにより腐肉食者密度が高いレベルで維持されること、そして、営巣放棄後10年程度たつと、高木層や林床植物の変化という間接効果により、生食連鎖に属する植食者や捕食者が増加するものと考えられた。したがってカワウの営巣の影響は、時間と共に直接効果→直接効果のタイムラグ→間接効果と変化していくことが明らかとなった。
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