シロイヌナズナでは、これまでの変異体の解析よりFUS3が種子成熟過程を制御する転写制御因子の一つであることが報告されている。本研究ではステロイドホルモンによる人為誘導系を用いて植物体でFUS3を異所発現させることにより、種子貯蔵タンパク質遺伝子の発現が誘導されることを見出した。特に、Curciferin C (CRC)のFUS3による誘導は遅い反応(48〜72時間)であり、さらに完全にABA依存的であった。CRCの異所発現誘導が遅い反応であることより、ABA依存的にFUS3によって発現が誘導される中間制御因子の合成がCRCの転写活性化に必要であることが予想された。この中間転写因子の同定を目的として、CRCプロモーターの転写開始点上流-731bpまでの領域をin vivo footprinting法により転写因子の結合領域の同定を試みた。その結果、3か所の領域にFUS3とABAの両方に依存して転写因子がin vivoで結合することが見出された。この3か所の塩基配列はいずれもABRE (ACGTGTC)と類似した配列であった。シロイヌナズナゲノムの80%以上をカバーするオリゴDNAアレイを用いた解析により、ABA依存的にFUS3によって発現が誘導される遺伝子を検索したところ、ABRE結合性転写因子と構造類似性の高い遺伝子、AtbZIP67が見出された。ゲル移動度シフトアッセイの結果、AtbZIP67組換タンパク質はin vivo footprintingで見出された3か所の領域に結合可能であり、さらに、T87培養細胞を用いたトランジェントアッセイではAtbZIP67はCRCプロモーターの転写活性化を生じさせることが見出された。以上の結果より、FUS3はABA依存的に中間転写因子としてAtbZIP67の発現誘導を介してCRCの発現を制御していると考えられた。
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