植物の光合成遺伝子の機能発現と発現調節を司る翻訳システムの分子構成を理解するためには、葉緑体ゲノムコード光合成遺伝子のデコーダー(葉緑体翻訳系)と、核ゲノムコード光合成遺伝子のデコーダー(細胞質翻訳系)の全構成成分の把握が不可欠である。本研究代表者はこれまでに、緑藻クラミドモナスをモデルとして葉緑体70Sリボソームのプロテオームを明らかにしてきた。本研究では、クラミドモナス80S細胞質リボソームのプロテオーム解析を行った。すなわち、多段階のショ糖密度勾配超遠心分離により高純度に精製した80Sリボソームの全蛋白質を電気泳動分離後、エドマン分解またはシークエンスタグ法によって部分アミノ酸配列を決定し、BLASTサーチにより全蛋白質の同定を行った。その結果、RACK1ホモログを含め、少なくとも計76個のラットオルソログが存在すること、また植物特異的リボソーム蛋白質は存在しないことが明らかとなった。すなわち、クラミドモナス80Sリボソームの蛋白質組成はラットおよび酵母の80Sリボソームのものとほぼ同一であることが強く示唆された。葉緑体70Sリボソームが細菌型70Sリボソームを土台として複数の葉緑体特異的リボソーム蛋白質を獲得して分化(おそらくは光合成関連遺伝子の翻訳に特化)してきたのに対して、細胞質80Sリボソームは10億年以上にわたる真核生物の多様化の間、その蛋白質構成を変えずにいることは興味深い。一方で、クラミドモナス80Sリボソーム蛋白質の遺伝子構成は、2コピー存在するRps27を除いて全てシングルコピーであり、ほとんどのリボソーム蛋白質を多重遺伝子としてコードしている酵母および高等植物や、多数の偽遺伝子をもつ哺乳動物のものとは大きく異なっていた。さらに光合成遺伝子翻訳に必須な翻訳因子の同定を行うために、アフィニティー精製による葉緑体ポリソーム分離を現在検討している。
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