植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)は、種子の休眠や乾燥ストレスを司るなど植物の重要な生理機能を担っている。これら生理機能はABAの内生量によって調節されており、ABAの生合成と代謝の絶妙なバランスによって制御されている。ABAは主として8'位の水酸化を経てファゼイン酸へと代謝され、この反応はシトクロムP450(P450)であるABA 8'-水酸化酵素が触媒している。今回、このP450酵素の遺伝子が同定でき、CYP707Aファミリーに属することが明らかとなった。シロイヌナズナには全部で4つのCYP707A遺伝子が存在する。そこで本研究ではRNA干渉を用いて、これら4つの遺伝子を同時に効率的にサイレンシングし、その植物形質を調べることを目的とした。併せて、この手法により、複数存在するファミリー遺伝子の同時サイレンシングの一般的な方法の確立も目指した。 4つのCYP707A遺伝子をサイレンシングするために、これらの遺伝子の一部分をタンデムにつなぎ合わせたRNA干渉用のコンストラクトの構築を行った。まずはCYP707Aの配列に沿って、各遺伝子を250塩基ずつつなぎ合わせたものを、PCR法を用いて作製した。これを、アグロバクテリアを用いた植物形質転換用のベクターへ導入した。 これと併せて、サイレンシングの結果得られた植物形質を評価するために、既存のミュータントを用いて、CYP707Aの4つの遺伝子が欠失したラインの作製を進めている。現在までにCYP707A1およびCYP707A2の2重突然変異体において、種子に大量のABAの蓄積が観測され、著しい休眠性の増大と発芽阻害が見られている。これはCYP707A遺伝子がABA内生量の制御を司っており、農業上極めて有用な遺伝子であることを示している。
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